PEOPLE & REPORT

新時代の法曹を目指して

高須 順一 教授(法政大学大学院法務研究科 研究科長)、赤坂 正浩 教授(法政大学大学院法務研究科教授)、修了生 K.Kさん、 修了生 T.Tさん

修了生座談会
People & Report
双方向型授業、少人数教育により司法試験や実務で役立つ力を養成

教授陣やOB・OGによる熱心な指導と充実した設備が合格への強力な後押しに!

今回お迎えしたお二人の弁護士は、1回目の挑戦で司法試験に合格されました。
勉強法など合格できた要因や、在学中の思い出、実務で役立っている法政大学法科大学院の学びなどについて伺いました。

法的思考力以外にも人間的観察力が求められる弁護士という職業

高須 本日は修了生座談会ということで、法政大学法科大学院を修了し、現在、弁護士として活躍されているお二人に来ていただきました。さらには本校教員の赤坂先生にも同席をいただいております。私は司会・進行を担当する法務研究科長の高須順一です。まずは自己紹介をお願いします。

K.K K.Kと申します。上智大学法学部卒業後、法政大学法科大学院を2009年3月に修了して、同年9月に司法試験に合格しました。司法修習の期でいうと63期になります。

T.T T.Tです。埼玉大学教育学部を卒業して、2006年に法政大学法科大学院の未修コースに入学しました。3年間勉強して2009年に修了、その年に司法試験に合格しました。K.K先生と同じく63期になります。

赤坂 法政大学法科大学院で憲法を担当しております赤坂正浩と申します。よろしくお願いします。

高須 K.Kさん、T.Tさんともに2010年12月に弁護士登録をされました。弁護士として10年を迎えて、若手から中堅へと成長していく時期かと思います。今、弁護士としてどのような仕事をされているのでしょうか。さらには、弁護士の仕事について、どのような印象を持っておられますか。

K.K 現在、自分の事務所の代表をしております。仕事の内容としては、顧問先等の企業法務全般から、不動産関係、相続などの一般民事事件まで、幅広い案件を抱えています。職業としての弁護士の印象は、大変自由で職域が広く、責任が重い仕事だと思っています。弁護士は法的思考力だけでなく、多面的な能力が求められる職業だと感じています。

T.T 現在、法律事務所虎ノ門法学舎で勤務弁護士をしています。クライアントには個人も法人もいらして、不動産、相続、労働に関する事件、企業間の紛争、コンプライアンスの対策、M&Aなどを扱っています。いろんな人がこの社会の中で生きていて、紛争を避けて通れないことが多々あります。そういったトラブルをできる限り予防し、起きてしまったら解決に導いていくのが弁護士の役割だと思っています。

高須 私も弁護士になって30年になりますが、まさに、「浜の真砂※1は尽きるとも世に争いの種は尽きまじ」というのが、この間の実感です。だからこそ、我々のような仕事が必要なんだろうと。まずK.Kさんにお伺いしたいのですが、K.Kさんは法学部を卒業した上で、法科大学院の既修コースを選択されました。法科大学院への進学を決意した理由と、なぜ法政大学の法科大学院を選んだのかを教えてください。

K.K 2007年当時は法科大学院制度が始まって4年目ということで、司法試験に合格するためには法科大学院が最善の道だと言われており、法科大学院進学は自然な流れでした。その中で法政大学の法科大学院を選んだのは、キャレル(専用の自習席)も図書室も完備していて、勉強しやすい環境だと思ったからです。

高須 T.Tさんは法学部ではなくて教育学部のご出身です。大学卒業後、法政大学法科大学院の未修コースに入られ、3年間学ばれました。教育学部で勉強されていて、なぜ法律家になろうと思ったのですか。

T.T 大学生時代から、友人や後輩から法律が絡む問題について相談を受け、法律がいかに大切かを痛感しました。そこから法律をきちんと勉強して人の役に立てるような人間になりたいと思い、弁護士を目指すようになりました。実際に法律家になってみると、今度は、法律だけでは紛争が全て解決することはないのだと実感しました。トラブルの背景には人間関係や構造的な問題があり、そこを解決する必要があると。人の心が分かる人間力やさまざまな視点を持たないといけないことに気づきました。

仲間との切磋琢磨や朝からの勉強、自己流ノートが一発合格の秘訣

高須 お二人とも法政大学法科大学院を修了して1回目の司法試験で合格されました。同じ年の修了生であり、ご友人でもあります。お二人が1回で合格できた要因を何だったんでしょうか。

K.K 自分を律し、勉強に明け暮れる生活ができたことが要因だと思っています。なぜそういう生活ができたのかというと、友人にも恵まれたし、先生方に見守っていただけたということが大きかったです。その結果、勉強を続けざるを得ない状況に自分を追い込むことができたと考えています。

T.T 勉強にかける時間×どのくらい濃く頭をフル回転させて勉強してきたか、というところが一番の要因なのかなと思います。勤務している事務所の創設者でもあり、法政大学法科大学院設立にも尽力された故遠藤光男先生※2がよくおっしゃっていたのですが、「司法試験に受かる必要な要素が10あるとしたなら、地頭の良さが4、努力が3、要領の良さが2、運が1だと。この中の7から8を揃えれば合格する」と。私の場合は、運はバッチリで、あとは努力すればするほど合格に近づくので、努力した分が実ったのかなという印象を持っています。

赤坂 運はバッチリだという根拠は何かあるのですか。今までの人生でもそうだったんですか。

T.T そう思い込んでいるだけなのですが(笑)。ただ、実際に短答式試験で、迷いながら回答したものがほとんど正解になっていました。

K.K 先ほどの10の話は、さすが遠藤先生だなと思います。7から8あればいいということですものね。

高須 補足しますと、遠藤先生は法政大学の大先輩で、戦後すぐに卒業して弁護士になり、最高裁判事まで務めた方です。法政大学出身の多くの法曹が尊敬し、親しんでおりました。2016年にお亡くなりになりましたが、お二人はまだ直接お話を聞くことができた世代ですね。

赤坂 先ほどK.K先生は1回目で合格できた要因として「自分を律する」とおっしゃいましたが、具体的にどのように律したのですか。

K.K とにかく規則正しい生活をするということです。当時、私は朝8時30分に学校へ行き、夜6時には帰宅。家では翌日の講義に向けた予習、寝る前には簡単にその日の復習をするという生活を続けていました。定期的に友人たちとゼミを組むことも私にとっては一つの環境作りでした。恥をかきたくないという性分なので、ゼミでできるだけ良い格好をしたいがためにも勉強するという(笑)。また、テレビを一切観ないと決意もしました。そうやって自分を勉強へ追い込んでいました。

赤坂 すごいですね。T.T先生はどのような勉強法をされていましたか。

T.T 私は、友人と「一限会」という会を作っていました。一限とは、朝一番の授業のことです。授業はいつも一限からあるわけではなくて、二限目からだと11時開始なので、10時30分に到着すれば授業に出られるんです。しかし、「何曜日だろうが一限開始の9時30分※3よりも前に学校へ行き、午前中もしっかり勉強しましょう」ということを仲間とやっていました。夜は23時まで学校にいられるので時間ギリギリまで勉強していました。

K.K 今思い出したのですが、勉強法に関して、その日に勉強したことをノートに書く『勉強日記』というものを毎日つけていました。全部の科目ごとに色を分けて書くんです。民法だったら赤と決めて。すると、見返したときにびっしり埋まっているので満足感があるんです。しかも色分けをしているので「最近、民法しか勉強していないな」といった偏りが発見でき、そうして勉強が足りない部分を補っていました。

赤坂 その日記をぜひ公開してほしいです(笑)。

K.K 司法試験直前に、勉強日記を見返したときに大きな自信になったのを覚えています。

T.T そういえば私は、定期試験を本番のつもりで臨んでいました。出題範囲が決まっているので、そこだけはどんな問題が出ても完璧に答えられるように、それこそ寝る間も惜しんで全身全霊を込めて試験に取り組もうと意識していました。そうすることで、自分を鍛えていくことができたのかなと思っています。

赤坂 K.K先生、T.T先生ともに大変な熱量で勉強されていたんですね。脱帽します。お二人の司法試験に向けての勉強法は、法政大学法科大学院への入学を考えている人だけでなく、在学生にも伝えたいですね。

  • 1:浜の真砂。数の多いことの例え
  • 2:フロアガイド参照。法科大学院棟1Fで最高裁判所判事法服等を展示
  • 3:当時の時間割。現在は1時限は8時50分開始
司法試験の勉強だけでなく法律相談同席も貴重な学び

高須 法科大学院時代に辛かったこと、勉強を諦めかけたことはありましたか。

K.K 入学当初は自分が思っているような成績が残せず、司法試験の過去問をやってみてもうまく解くことができませんでした。そのときに、このまま勉強していて合格できるのかなと、見当もつかない状況を感じたときが一番辛かったです。しかし、仲間が猛烈に勉強している姿を見ることが励みになりました。大変ではありましたが、仲間に必死についていこうとすることで、自然と精神的な辛さを緩和させることができました。

T.T 勉強を諦めかけたことはないのですが、一番辛かったのは未修コース1年生の前期の授業でした。勉強の勝手が分からない状況で、授業の進行に遅れないようにしようとだけ心掛けていました。しがみつくように勉強を続けていったら、なんとなく先が見えてきたという感じです。

赤坂 大変だっただろうなと想像がつきます。未修で入学されても、一生懸命授業についていこうと努力すれば、展望が開けるということですよね。

高須 それが法科大学院の良さでもあると思うんです。

赤坂 弁護士になられた後、法科大学院で勉強したことは役立ちましたか。

K.K はい。とても役に立ちました。法科大学院では、学生同士が作るゼミにおいて議論する機会が非常に多かったですし、先生からの質問に対してその場で答えるということもたくさんありましたから、口頭で伝える能力や表現力が鍛えられたと感じています。もう一つは、判例を分析する授業のおかげで、実務に入ってからも多くの判例を読むという作業が全く苦痛ではなく、短時間で内容を理解することができるようになっていました。

T.T 私も役に立ちました。司法試験とは実務家登用試験ですので、実務家になるために必要な資質が試される。与えられた事案を分析し、法律構成を考えて最終的な結論を自分の中で出していくという授業内容は、リーガルマインドの基本です。司法試験はもちろんのこと、実務のどんな場面でも生きています。

高須 法科大学院では臨床科目というものがあって、学生がプロの弁護士の横に座り、法律相談に立ち会ったり、実際の仕事を垣間見るような科目が用意されています。そういう授業はいかがでしたか。

K.K 法律相談に同席できたのは貴重な経験でした。一般の相談者から聞いたことを、どういうふうに法的な問題として捉えるか。それをプロの弁護士は瞬時に行うことができ、大変驚きました。さらに、内容を噛み砕いて、相談者に上手に伝えるやり方も勉強になりました。

T.T 弁護士になりたての頃にすごく生きたと思っています。社会人経験がない中で実務に就いたので、生で見た経験が、実際に法律相談を受ける際に役立ちました。

高須 法科大学院での勉強が弁護士になってからも生かされているというのはうれしい限りです。現在、K.Kさん、T.Tさんは法政大学法科大学院の同窓会の会長と事務局長を務められています。同窓会では学生に向けてどのようなバックアップをされているのでしょうか。

K.K 法政大学のキャリア教育・支援の一つである「公務人材育成センター」に協力し、種々の講座が開講されています。具体的には法律文書の基本的な書き方を教える講座、司法試験の過去問を分析・研究する講座などです。また、講座に参加した学生から個別にメールで答案が送られてきて、それに対して添削して返すことも頻繁に行っています。

T.T 同窓会には「アドバイザー制度」というものもあり、OB・OGが法科大学院へ来て、2時間程度在席する間に、学生が自由に質問をしてそれらを受けることもしています。さらに「知恵袋ML」というメーリングリストがあり、メールで学生からの相談を受けて、OB・OGが返していくということもしています。

高須 メールというと、私どもの世代ではイメージしにくいところもあるのですが、今の学生にはメールが好まれる感じなんですかね。

K.K すでに、その先のLINEになっています(笑)。私は直接繋がってはいませんが、私たちより下の合格者はLINEでグループを作って勉強の相談に乗っているようです。

赤坂 時代はSNSなんですね(笑)。

法科大学院制度は変化の時大学との連携がより強化

高須 法科大学院制度は、今後大きく変わることが決まっています。少し先の話になりますが、法学部を3年間で早期卒業し、法科大学院の既修コース(2年コース)に進学するという、5年間の一貫教育制度が導入されます。K.Kさんは法学部から法科大学院へと進みました。こういう新たな制度のメリットや注意点がありましたら、教えていただきたいと思います。

K.K 大学の授業は広く浅くという印象があります。大学では基礎を学び、そのまま法科大学院へ移って深く勉強するということは、大きなメリットだと思います。注意点があるとすれば、法科大学院の2年間はある程度時間的に余裕があるため、気が緩みやすくなる点でしょうか。

高須 一方で法科大学院は、法律以外は何も知らないという人だけを法律家に育てるわけではなく、さまざまな教育を受けた人、社会経験を積んだ人にも法律家になってもらうという理念を持っています。T.Tさんは未修コース出身ということで、未修者教育の重要性をどうお考えでしょうか。

T.T 法律家にはあらゆる形での活躍が求められています。法律以外の勉強や経験をしてきた人が法律家になることで、社会の需要を満たせるだろうと考えています。私の場合は教育学部出身ということで、教師をしていたわけではないのですが、教育を学んだ経験がありますので、法教育に携わったり、スクールロイヤーという形で教育の現場に貢献することもできると考えています。

高須 経営コンサルタントをされていた方が未修コースに入り、弁護士となって企業法務の分野で活躍している人も実際にいます。以前、帰国子女の学生がいて、司法試験ではなかなか苦労されていましたが、受かったら、外国語が話せることが強みとなり、複数の大きな法律事務所から誘いがかかっていました。確かに社会のニーズに合わせて、さまざまなバックグラウンドを持った法律家が必要なのだろうなと思います。

赤坂 5年間の一貫教育について、少しだけ補足させてください。この一貫教育を連携構想とも呼んでいます。制度としては、特定の法学部が特定の法科大学院と連携協定を締結すると、法学部側に法曹コースを設置することができるようになります。法曹コースを希望する学生は、法学部2年次から法曹コースに登録することができますが、登録すると3年生までの間に所要の科目で優秀な成績を収めなくてはなりません。それをクリアすれば早期卒業となり、連携協定先の法科大学院既修コースへ面接だけで入学できるわけです。現在、法政大学法学部は法政大学法科大学院とのみ連携協定を結んでいます。

高須 2023年度からは司法試験の受験制度も変わりますよね。

赤坂 はい。2023年度から法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになります。受験制限回数の5回のうちにはカウントされるのですが……。例えば、2019年4月に入学した法学部1年生の場合、2年次に法曹コースに登録、2022年3月に3年次を終えるとともに大学を早期卒業、2022年4月から法科大学院の既修コース(2年コース)に進学し、2023年には司法試験にトライできます。1回目で合格できれば、法科大学院修了後、2024年4月から1年間、司法修習を受けることになります。つまり、大学入学から最短6年間(大学の法学部3年間+法科大学院2年間+修習1年間)で実務に就くことが可能になるわけです。

先生や先輩との距離が近いから安心して勉強に没頭できる

高須 最後に、これから法政大学法科大学院への入学を考えている人たちへメッセージをお願いします。

K.K 我が校は伝統的に殺伐としたところがなく、和気あいあいとしています。上下のつながりが強く、先輩から教わる環境もあります。新入生の皆さまにおいては、不安も大きいかと思いますが、強いバックアップがあるので安心してください。ただ、気をつける面があるとすれば、和気あいあいとしている分、その雰囲気に流されて勉強しなくなる方もいることです。厳しさを忘れずに司法試験合格を目指してほしいと思います。

T.T 法政大学法科大学院は学習環境が素晴らしいロースクールです。少人数制で先生とも距離が近く、とことん勉強できる環境です。アドバイスとしては、私自身心がけていたことでもあるのですが、納得いくまで考え抜き、分からない点があれば先生や友人に聞いて解消していくことを徹底的にやっていってほしいです。そうすることで司法試験合格が見えてくるだろうと思います。

赤坂 K.K先生、T.T先生ともに、在籍中に非常に真剣に勉学に取り組んでいたことが分かりました。これから入学を考えている皆さんには、お二人のような先輩を見習ってもらい、一生懸命勉強していただきたいと思っています。教員も少人数教育の利点を生かして、よりいっそうきめ細かな指導を行えるように努力していく所存です。

高須 本日はお忙しい中、お三方に集まっていただき、貴重なお話を伺うことができました。誠にありがとうございました。

高須 順一 教授 プロフィール
  • 法政大学大学院法務研究科 研究科長
  • 弁護士
  • 元法務省法制審議会民法(債権関係)
  • 部会幹事
赤坂 正浩 教授 プロフィール
  • 法政大学大学院法務研究科教授
  • 元司法試験考査委員(憲法)
K.Kさん プロフィール
  • 2009年:法政大学法科大学院修了(法学既修者)
  • 2009年:司法試験合格 新第63期司法修習生
  • 現在:柏原語六法律事務所
T.Tさん プロフィール
  • 2009年:法政大学法科大学院修了(法学未修者)
  • 2009年:司法試験合格 新第63期司法修習生
  • 現在:法律事務所 虎ノ門法学 舎