法務研究科について

研究科長ご挨拶

法務研究科について

法政大学法科大学院の現在

 少人数教育と双方向授業が最大の特長です。1学年30名を4クラスに編成し、必修科目においても、1クラス10名前後の学生と、教員とが、基礎、基本から応用まで、双方向授業を展開しています。

過去から現在へ

 法政大学は、ボアソナード博士ゆかりの新進気鋭の在野法曹により設立された東京法学社をルーツとしています。市民のための法曹という理念のもとに、在野の法曹養成と法曹活動とが見事に結実したのです。

 法政大学法科大学院も、この伝統を受け継いでいます。研究者教員と実務家教員の比率は、10対5名です。基礎、基本をしっかり学修しながら、実務系科目(ローヤリング、クリニック、エクスターンシップ(法律事務所、企業法務、霞ヶ関))を履修することができます。

現在から未来へ

 「超」が付くほどのアナログ人間です。これではいけないと思いつつも、毎朝、新聞を切り抜きし、通勤電車の中で読むほどです。
 この年末年始、気になった記事の1つは、英半導体設計会社アームのレネ・ハースCEOが、「AI、創造的破壊の好機」の中で、「法律を分析する仕事はなくなるかもしれない」と話していたものです(日本経済新聞2023年12月17日(日))。ここには、法学研究者の仕事だけでなく、法律実務家のそれも含まれるでしょう。司法試験に合格するには、典型論点(既知の問題)に対して模範解答を覚えて書ければよい――法令や判例を覚えて当てはめればよい――と考えている人も少なくないと思います。法律実務家としては、基本を理解したうえで――基本的な法令や判例だけではないでしょう(!)しかし、他に何についての基本を理解していなければならないのでしょうか(?)――、未知の紛争に対して解決を探る、あるいは創り出すことができなければなりません。しかし、ここにあげたことは、現在か、近い将来かは別にしても、生成AIの方が万事うまくやってくれるでしょう。さらに、大規模言語モデル(生成AIの一部に含まれるものだそうです。)は、未知の問題(データ)に対し解決を示す(予測する)ことまでできるようです(これを「汎化」というそうです。)。
 もう1つの記事は、法務人材の不足に関するものです(同2023年12月18日(月)、同2024年1月15日(月))。後者は、コロナによる在宅勤務の浸透と法務人材の不足から法テック導入が加速したと説明しています。司法試験合格者数は、平成5(1993)年に712名で、令和5(2023)年は1,781名です。法務案件の複雑化を差し引いたとしても、法科大学院教育に携わる者としては、法務人材の不足の内容や理由、なんらかのミスマッチがあるのではないかを考えなければなりません。しかし、その先には、法テックの進化によって法務人材は不要となるのか、との問いが待ち構えています。
 このように、生成AI時代に法律家に求められるものを考えなければならない時代がすでに到来しています。
 大規模言語モデルは、学習したデータになかったありえない事実を、さもあるかのように答えてしまうのだそうです(この現象を「幻覚(ハルシネーション)」と呼ぶそうです。)。そうだからこそ、大規模言語モデルが示す結果をそのまま信用してはいけないと繰り返し警告されています。
 大規模言語モデルは単に次に来る単語を予測するだけであり、また、大規模言語モデルの学習に使うデータには多くの誤りや偏見が含まれているそうです。そのため、同モデルをそのまま使って後続の単語を生成すると、偏見や差別的、攻撃的な発言が生じることがあるそうです。これを避けるには、やはり、人がフィードバックをし、同モデルを修正する必要があると説明されています。
 このように、ところどころヒントになりそうなものがあります。生成AI時代に生身の人間としての法律家に求められるものは何か、また、人、社会、法がどのようになっていて、そして、どのようにあるべきか、みなさんといっしょに探っていきたいと考えています。

2024年1月


岡野原大輔著『大規模言語モデルは新たな知能か―ChatGPTが変えた世界』(2023年、岩波科学ライブラリー319)
太田勝造編著『AI時代の法学入門―学際的アプローチ』(2020年、弘文堂)

法務研究科長 新堂明子